『相州戦神館學園 八命陣』鈴子ルート第八話 感想
“——月が、綺麗ですね”
正田が曾祖父ちゃんと曾祖母ちゃんの馴れ初めに全力を出した章。
もはやこの2人が主役といっても過言でない。レスト・イン・ピース、鈴子。
百合香の術中に落ち、意識が混濁としている四四八。自然と彼女の情報が入ってくる。
貴族として生まれ、貴族として花開く。神聖さは本物で、男女問わず彼女と関わる者はみな平伏してきた。
順風満帆、何者にも侵されない整地された人生——しかしそれが彼女を満たしたかといえば......
“賞賛繁栄貴族美貌——ねえ、それがいったいなに?だから何なの、何になるの?どなたか教えていただけますか”
望みはシンプル。“本当の私を見て”どこにでもいる少女が抱く乙女チックな願望。
しかし、次々と己にかしづく人々を見る内に、そんな本音を口にすることに意味を感じえなくなってしまった彼女。ゆえに、いつまでもいつまでも理想の殿方を待つばかり——。
夢界に入った鈴子たち。
聖十郎から与えられた情報通り、現階層は第七。
到着したのは二代目戦真館。
相変わらず百合香の力は色濃く、鳴滝がいなきゃとっくに詰んでるほど(*´Д`)。
そんな中、狩摩と野枝が登場。
サラッと「野枝=泥眼」であることも明かされ、ペースは完全に狩摩のもの。オマケに四四八の身柄を預かってるといわれりゃ鈴子たちに否応なし。この辺の立ち回りはさすがとしか。
移した場所は、歩美ルートのラストステージである高徳院。
狩摩のホームで、諸々ネタバラシ。
・野枝の立場。本来は辰宮勢なのだが、同盟の関係で神祇省預りに。
・夢界に入ることができるのは、盧生とその眷属のみ。
・現在盧生は柊四四八と甘粕正彦の2名のみ
・甘粕の台頭を阻止すべく、辰宮&神祇省の同盟は結成されていた
・狩摩は鈴子たち同様四四八の眷属として夢界に出入りしていた
・6話ラストで行われる吸血行為は、盧生とのシンクロを深める意味合いが
・今ルートでは百合香がパワーアップ。対して狩摩は大幅に弱体化。現在は詠段クラス
まずは四四八の意識を取り戻すことが第一目標。
が、心を絡みとってくる百合香は難敵。鳴滝だけが頼みだが
狩「安心せえ、お嬢の術は俺には効かん。なんせ現実(もと)からぞっこんじゃけえのう」
「おかげでこの通り、惑わされるも糞もないわ。なあ傑作と思わんか?愛の力は偉大よのうッ」
新同盟成立。
......が、狩摩は戦真館面子へ重大な隠し事を。というのも、前話で空亡から逃げるとき、次の襲撃先を辰宮邸へと誘導していた!!
惨劇になるのは必定。これを黙ってる狩摩はホンマ......( ;´Д`)。
野枝の心中。
女で生まれただけで、下に見られる時代。蔓延っている価値観が、彼女をずっと苦しめてきた。
“女のくせに。女のくせに。女のくせに——うんざりなのよ。勝手に幸せを定義するな”
“私は、伊藤野枝だ”
“ちゃんとした名前と心を持っている、一人の人間なのだ”
確立した在り方。しかし時代がそれを許さない。
実力主義たる戦真館へ入学、その後は女性当主の辰宮家へと変遷。
その流れで邯鄲へ。目覚めた能力はキャンセル一転特化。自身の厭世観が反映されたこの力、野枝はただただ嫌悪。
そんな彼女の下をたずねる栄光。
共に過ごした日々、泥眼との因縁......伝えるべき言葉は何なのか——自問の末に、いざ一世一代の大勝負へ。
栄「責めようなんて全然思ってない。ただ伝えたかったんだよ。オレやめねえから」
「あいつらの中でオレは雑魚くても、馬鹿みたいにダサくても、卑怯もんには絶対ならねえ!」
「だから見ててくれ......これからオレ変わるから。野枝さんやみんなの自慢って言えるような、カッコいい男になるから。ここに誓うよ、もう逃げない。たとえ、どんな奴が相手でも」
「この手で守れるようになる」
この宣誓に、ここまで険しかった野枝の表情にようやく笑みが。
加えて栄光は「女性が男より目立ってはいけない」なんて考えとは無縁もいいところ。自然と口にする言葉の数々が、野枝の心に響いていく。
栄光のイケメンさがとどまるところを知らない。
そのままキャンセル使い同士ならではの空中デートに。
この辺の愛の告白とその返答は、正田作品の中でも指折りの名シーン。
こいつら盛大に惚気やがって。永久不変に爆ぜろ。
野「ここが邯鄲(ユメ)の中だからでしょうか。出会いも、積み重ねた時間も、泡沫のように消えてしまいそうだと思うんです」
「たとえば、あなたが私のことを綺麗さっぱり忘れたりとか」
「よく分からないうちに夢中になって、覚めるように嫌いになるとか」
「それもまた、当然のようにありえそうだって思いません?」
栄「そんなことはねえ」
野「本当に?」
栄「ああ。それで忘れてしまっても、何度だって好きになるよ」
——そして、一同は辰宮邸へ殴り込み。
入口から慇懃な所作で迎えてくれる幽雫くん。
彼としてもこのような対立は望んでいなかったようで......。この作品はつくづく部下が上司に恵まれねえな!
幽雫くんの世界の中心にあるのは、徹底して“お嬢様”。
彼女の命令にのみ従い、彼女のために命を懸ける。私情や本心など全て二の次。最期の時まで、自分だけは傍にいようと、従者として貫徹している。
そのことを神野や狩摩にどれだけ嘲笑われようと今まで耐えてきたが......この男の言葉だけは看過できなかった。
鳴「くだらねえ」
「一番の馬鹿を放置して、今まで何やってきたんだあんたは」
コレに一瞬で怒りが沸点に迫り、言葉に険が宿る幽雫くん。冷静さのみしか見せてこなかった彼の突然すぎる豹変。キレすぎでは?と初見時はびっくりしたものです。
一触即発のところで、主の部屋の扉が開き、百合香が笑顔でみんなを歓待。
百「皆さん、お久しぶりですね。無病息災のご様子でわたくしも喜ばしく感じております」
これをナチュラルで言ってのけるお嬢様の狂気よ((((;゚Д゚))))。
これまでと何ひとつ変わらぬ態度で応じる百合香に、一同困惑。とりわけ情に厚い晶が声を上げる。
百合香の破段は、彼女のコンプレックスから生じたもの。“特殊な家柄”という共通点をもつ鈴子が、そのことをいち早く察知。そこから逆説的に、彼女の本当の願いにも思い当たる。
鈴「あなたは“ただの女の子”になりたいんですね」
気持ちに共感。しかしその上で、百合香の在り方を否定する。
持って生まれてきた資質以外、一人の人間としての“辰宮百合香”はどんな存在なのか?本人は分かっているのか?
鈴子が突きつけるこれらの言葉に、初めて戸惑いを見せる百合香。
ふと、傍に控える従者に意見を問うと、従者は大荒れ。
冷静な仮面が剥がれ落ちた、幽雫くんの魂の叫び。
話が大きく動こうとしたところで——BGM「PARAISO」と共に作中最強生物が、ついにお目見え。
“これより先は破壊の楽園(ぱらいぞ)。滅びの荒野が広がるのみだ”
さっそく百鬼夜行が地の隅々まで行進。逃げる場所は皆無。
百合香、野枝、幽雫、狩摩ら実力者たちですら、ここが終焉だと確信してしまうほどの絶望。
加えて、この暴威は本領の1割程度という事実......Diesでもここまで「終わった......」って展開はなかったかも。
そんな中、栄光は静かに野枝の手を握る。恐怖と、それを覆さんとする勇気。臆病者だと卑下しても、大事な人のために前を向くその姿。
それが、英雄に焦がれる男に火をつける。
甘「そうだ、おまえは間違ってなどいない」
「俺がその意気、買ってやろう。心気示して柱となれよ。見せてくれ」
第9話→『相州戦神館學園 八命陣』鈴子ルート第九話 感想 - ゆらりゆらりとゆらゆらと