小説『六人の噓つきな大学生』感想
みんなが通る道。
story:超大手IT企業「スピラリンクス」の入社最終試験までこぎつけた大学3年生・波多野祥吾。同じく試験を乗り越えた5人の学生たちと共に、与えられた最後の試験を乗り越えようと奮起するが――
近所のTSUTAYAで平積みされていたので、気になって購入。
まず、読んで感じたのは「うまいなぁ~~」。
就活期のあの何ともいえない独特な心境、環境......それをこうも文章で表現できるものかと、感動。
就職活動なんて、ブログ主からしてみればもう10年ほど前になるのだが、あのときの苦~~い思い出が読んでいてふつふつと蘇ってきましたよ(笑)。
さてさて、しかしながら本書はただの就職活動記で終わらない!試験中にとある「事件」が起きるわけで......ミステリとしても秀逸!
合間合間に入る当事者インタビューが、登場人物たちの印象をひっくり返したり、返さなかったり......。
とにかくページをめくらされた小説でした。就職活動を経験した人間なら、誰しもこの本に思うところがあるはず。
下のほうでネタバレあり感想
グループディスカッションを、「過去の黒歴史掘り返し大会」へと至らせた犯人は、イケメン担当の久賀くんでした。その動機が「“就職試験”というシステムへの報復」ってのが大仰だけど、どこか納得してしまう理由なのがすごい。
いや~、就活を体験した人ならば、やっぱ誰しも面接・試験に理不尽を感じたことでしょう(久賀くんのように、“誰かのため”というのは珍しいでしょうが)。
やはりあの期間というのは人生の中でもかなり特異なものでもあるため、各キャラクターたちが感じる憤りや不満などが、手にとるようにわかってしまった。
特に、ディスカッション日直前に試験内容をあんな風に変えた(しかも意図的に)スピラリンクスに関してはもうムカムカしてムカムカして(# ゚Д゚)。
さてこの小説、タイトル通りみんな何かしら嘘をついていたわけだが、根っからの極悪人と呼べるような奴は誰一人いなかった。みんな善性を感じる人たちだったのが、この小説を読み終わって非常に気持ちの良いところ。
仕掛けとして、インタビューで一旦それぞれ“嫌な奴”と思わせるのが、本書のミソ。ブログ主もまんまとはめられました(笑)。
ストーリー前半の語り部であり、長い間犯人扱いされてしまった波多野くんが故人となってしまったのは少し寂しい......。悔しい思いをしたにも関わらず、みんなの裏をとった結果「僕の勝ちだ」と綴ったシーンはひたすらに爽快。
最後に、ブログ主が一番印象的だったのが、就活に対して袴田が語ったこのセリフ。
「......何というか、自分でもよく分からない上昇志向が芽生えるっていうか、変に意識が高い状態に調整されるっていうか。いい言い方をすれば「成長しすぎる」んだな」
10年前の、すべてが未熟なくせに驕りまくっていたブログ主にぶつけたい言葉である。
いろんな人にお薦めしたい、そんな小説。