「Dies irae ~Amantes amentes~」ChapterXⅢ 感想Ⅱ
“その全部が、あたし達の生きてる証なんだって震えるくらい愛しいの”
後半戦。神父の狂気、玲愛の覚悟、そして螢の決断。
太陽たる香純を中心に、登場人物たちの魅力が大爆発してるラスト。
こんな完成度の高いシナリオが、まだ1人目のヒロインのストーリーなんだぜ?
教会地下の通路を進む香純と神父。
2人きりで話せる、香純にとっては願ってもない状況か。
ただいかんせん相手は作中“口撃力”最強クラスのトリファ。
レスバで勝てるのが水銀とマキナくらいなので、会話の主導権はトリファが握る展開に。
上の戦闘を察知し、螢が生き残ったことに驚く神父。
香純は逆に安堵する。そこをすかさず指摘。
ト「彼女が独り立ちできるようになるまで育てたのは私ですがね、あれは言ってしまえば亡霊ですよ。過去と死者しか見ていないので、今も先も見ていない」
どの口がそんなセリフを......。
原因はおまえじゃないか。こんな奴に人生を狂わされたのかと思うと螢が不憫でならない。
玲愛は香純に用心するよう言い残し、自分は蓮のもとへ。
メメント・モリを乗り越えた先輩は強い。
香純はあらためてここに来た理由と今の自分の心情を告げる。
香「あたしはずっと、何にでも、逃げずに正面から受け止めたいし、考えたい。本当に何をしたらいいんだろうって、いつも真剣に悩みたい」
すごい信念だ。
もはや「バカスミ」だなんて笑うことは完全にできない。
いつも逃げてばっかりのブログ主には、耳が痛いセリフです。
香「だからあたしは、ちゃんと知りたい。あなたが何を考えているのか。だって、行動を起こすのはあたしの手と足でしょう」
さ、刺さるぅ~。
香純がまぶしすぎて辛い。
そもそも首切りを行っていたのだって水銀の術のせいなのだから、香純が責任を感じることはないに。
それでも、行動を起こしたのは自分の手足だから、と罪と向き合うその魂は、幾度も続く回帰の中で蓮が伴侶として選ぶのもうなずける輝きである。
その真っすぐさに、あのトリファも感じ入るものがあった模様。
——しかし芯までには届かず。
なぜなら逃げること・転嫁こそが神父の渇望。
神父の魂に影響を与えられるのは、良くも悪くも玲愛先輩だけか。
香純を気絶させ、聖餐杯は黒円卓の間へ。
教会の廊下にて蓮は玲愛と合流。
先輩がわざわざ着替えたのはまったくもって謎。
目を閉じることを辞めた先輩は蓮についていくことに。
教会地下にたどりつくと、囚われの香純。
蓮は取り戻すべく戦闘状態に移行するも、無手のトリファを警戒。
余裕綽々の神父、首を差し出して文字通り舐めプの姿勢。
挑発に乗る形で蓮は現段階での本気の一撃を振るうが......なんとかすり傷一つつけることもできない!
ト「私の選択は間違っていなかった。やはり誰にもハイドリヒ卿は斃せない」
「あなたは運がよいですよ、藤井さん。ハイドリヒ卿に出逢わず終われることを、神に感謝すべきだ」
ラスボス宣言の神父。まぁ螢にすら負けそうだった(というか実質負けてた)このルートの蓮ではどう足掻いても黄金には届かないだろうから......。
ただの徒手空拳にいいようにやられ、たまらず創造を発動しようとするも、トリファから厨二度の少なさを指摘される。
要はマリィへの愛が足りんよ、蓮。
相手はあらゆる保護がなされた黄金の玉体。一方の蓮は形成止まり。
展開は一方的。
しかし折れない蓮に対し、トリファはここにきてようやく目的を明かす。
黄金錬成の真実は“ラインハルトの戦争奴隷になる”こと。
従って、城を流出させるわけにはいかない。かと言って、かつて奪われた愛し児たちを諦めるという選択肢は断じてない。
そこで不完全なゾーネンキント・香純を使い、死者蘇生のみを狙う。それがトリファの黄金錬成。
ト「私は償い続ける罪人だ。己が罪を忘れはしないし、二度と逃げたりしないと誓った」
「創って壊して創って壊して、延々と同じことを創ったり壊したり、あははっ、しかし途中で飽きたらどうするんですかねえ。まだ最初の一回目なのに大変ですよ、まったくこれは——はははははは」
蓮の頭を何度も打ちつけ、狂ったように嗤うその姿はまさに邪なる聖者。
バックで流れる「Lohengrin」と神父のCG、そして中の人の怪演が相まって、ここの恐怖と絶望感はハンパじゃない。
こんな男を香純は救済しようと思ったのか......。知らなかったとはいえ、あまりに無謀な戦いだったんだな。
ト「藤井さん、それでも副首領閣下は私のことを、邪なる聖者などと呼ぶのですか!これほど黄金に順じているこの私を!」
「カール・クラフトは、偽りの光だと言うんですかねえッ!」
ChapterⅤでラインハルトに「魔導の師」と述べていたトリファもやはりメルクリウスが嫌いなんだなとわかる貴重なシーン。
他の団員たちは嫌っているのが分かりやすいが、トリファはあまりこういう態度みせないから新鮮。
しかしこれだけ誰からも敬れない神様って......。
そんな神父の狂態を見た蓮は、「金メッキだ」と評す。
ただの模倣だと。
しかしトリファはぶれない。黄金に転嫁して何が悪い、それこそ己が渇望なんだと堂々たる口ぶり。
さらに、黄金の代行として永遠に立ちつづけることを宣言。
その威容は、確かにラスボスにふさわしいじゃないかと嘆息せずにはいられない。
だが、蓮は神父の勘違いを見逃さない。
蓮「だからさ……」
「あんたが転嫁しているのは……」
「昔、救えなかったっていう、何処かの誰かに対してだろうが」
苦悩に苛まれているフリをして、本当は金メッキを被っていられることが嬉しくてたまらない。
そんな本音を隠すために「償い」という言い訳を用いていることが、蓮は許せない。
司狼といい蓮といい、人の核心をズバっと突くなぁ。
そして視線はここまで見守っていた玲愛に。
玲愛はよく耐えていたなホント。
さすがに動揺するトリファ。
仮に香純が今回の儀式で死んだらそこまで。
生き残っても、蓮が死んだら次代を産む気などないだろうから手詰まり。
どちらにせよ、永遠に続けようとしていたトリファの巡礼はここで幕をとじることになる。
玲愛もまた次代を残すつもりはないと告げる。
こんなことはもう終わりにしようという玲愛の願いが込もった言葉だったが、これが最悪の引き金になる。
ト「であれば、いい案がある」
「私の愛が、真実私のものであると証明するにはもはやそれしかありません」
「私の子を産みなさい、テレジア」
玲愛への愛が器に引き摺られているものでないと示すため、トリファは切り札を抜く。
“親愛なる白鳥よ”
“この角笛とこの剣と この指輪を彼に与えたまえ”
“この角笛は危険に際して救いをもたらし”
“この剣は恐怖の修羅場で勝利を与える物なれど”
“この指輪はかつておまえを恥辱と苦しみから救い出した”
“この私のことをゴットフリートが偲ぶよすがとなればいい”
“Briah——”
“神世界へ——翔けよ黄金化する白鳥の騎士”
Vanaheimr——Goldene Schwan Lohengrin
召喚される死亡フラグ黄金の槍。
絶対絶命のそのタイミングで香純が奇跡を起こす。
かつて神父がとりこぼしてしまった花たちを城から掬い上げる。
「神父さま……」
「泣かないで」
“恨み言なら受け入れた。勝てと言うなら神でも斃そう”
きっと自分は憎まれていると思っていた。
だが十人の花たちはそんなことは欠片も抱いていなかった。
今日まで駆け抜けてきた神父の中の何かが崩れ落ちる。
自分が本当は何をすべきだったのか、ずっと目を逸らしていた事実に気づいたことで、創造の効果が薄れる。
槍は蓮を貫き、さらにマリィにクリティカルヒット。
7章を最後にセリフが一切なかったマリィに対してこの仕打ち。あんまりじゃなかろうか…。
マリィが引き剥がされるなか、蓮は最後の力を振り絞り、ギロチンを振るう。
攻撃全振りの神父。防御が文字通り紙のため、避けるべく動こうとするも———。
玲「もう逃げないんでしょ」
ギロチンは玲愛ごと神父を貫く。
玲「どうして、逃げなかったの?」
ト「手を、ですね……握られると、逆らえない。前に、振り解いて、後悔したことが、あったので……」
死にゆく2人。
だがそこには苦痛も後悔もみえない。
子どもを産めだなんてキモいこと言うなと玲愛。
トリファも我ながらあり得ないと苦笑。
そんな会話から感じるのは、この2人は“親子”なんだなというそれだけ。それだけで充分。
この2人の絆に黄金がどうこうなんて関係ない。
ト「なぜ気付かなったのだろう。なぜ目を逸らしたのだろう。真に立ち向かうべきものは何なのか、分かり易すぎるほど瞭然なのに」
玲「一緒に、私が行ってあげる。今言ったこと口先だけじゃあないんでしょう?」
そうして2人は城に吸い上げられる。
だがきっと蓮と香純が救いにきてくれることを信じ、再会の日を夢みる。
その瞳は、真に立ち向かうべき敵を見据えて。
鎖から解放され、香純がようやく蓮の下に。
香純なりにいろいろ頑張ったものの、結果的に玲愛やマリィを失ってしまったことを泣きながらに後悔する。
香「あたし、あたし、なんでこんな、なんでこんなにあんたの役に立たないんだろぉ……」
だが、それでも、蓮が無事だったことに胸をなでおろす。
あぁ香純、今だけ、だが間違いなく今はおまえがNo1だ。こんなに素敵なヒロインは他にいないよ。
蓮は香純の父を殺したことを告白。
だが、香純はそんなことどうでもいいと抱きしめる。
ハッピーエンドの雰囲気が流れるも、作者は鬼の正田。このままで終わらず。
蓮は槍に貫かれたことにより、魂が城に吸われる。
どうすることもできない香純。
香「蓮がいないと、頑張った意味がなくなっちゃうよ」
「一人に、しないでぇ……」
城が蠢く。
“実に茶番。実に結構。いやいや実に面白い”
“ではどうする?何を望む?我らはまだ健在なのだが?”
“続けるかね、戦争を。諦めぬかね、我らの打倒を”
“その答え如何によって、これより本番と洒落込むこともあながち不可能なわけではないが?”
ここまでの展開にあてられたのか、いつになくやる気マンマンな閣下。
こんな状況で出張られても困るわ!!
そんな哄笑する黄金の下、螢は一人覚悟を決める。
病室。
目覚めない蓮を甲斐甲斐しく看病する香純。
明るく振る舞うも、その心は限界寸前。
その姿があまりに辛い。辛すぎる。
初見プレイ時は「ここで終わったらディスクかち割ってクレームの電話いれまくるからな正田ァ」と舌を噛み切らん思いでしたよ、ええ。
病室を出て失意の香純。
そのとき視界にとらえたのは、螢。
彼女を追い、屋上へ。
嫌な予感をめぐらせ、何をしに来たのか問い詰める。
螢「彼を殺しに来たのよ。言ったでしょう、そうするって」
さながらChapterⅪのつづき。
香純の日常に残っているのは蓮のみ。
それすら奪われることに絶望を覚える。
螢は鉄面皮のまま、寂しくないよう蓮だけでなく香純も殺すと宣言。そうして軽く吹き飛ばす。
逃げ出したいほどの痛み、恐怖に襲われる香純。
だが、それでも、声を振り絞る。
香「あたしは——」
「こんなの、全然怖くなんかない!」
螢は剣を抜き、香純の足下にも得物を放る。
取った瞬間首を刎ねると最後通告。
香純はこれまでの精算だと受け止め、迷わず得物を拾い上げる。
そして——。
螢「あなたのほうが、私よりずっと強いよ」
螢は自身の胸を貫く。
初めから香純を害するつもりはなかった。
姿を見せたのは香純の強さを確認したかったから......か?
きっとそうだ。香純のまぶしさに誰よりも魅せられたのは彼女なのだから。
倒れる螢を抱きとめる香純。
そこには先ほどまでの殺伐とした空気はなく、大切な友人へ向ける涙しかない。
香「ねえ、起きてよ、続きしようよ。逃げないでよ、卑怯だよ。なんでみんな、あたしを無視して勝手に死んじゃおうとするのよぉ……」
「どうしてあたしだけ、いっつも蚊帳の外で空回りなのよォッ!」
螢がこれまで、どれだけのことをしていようと、"友達"だといって憚らない。
螢はその言葉でどれだけ救われただろうか。
香純のようになりたかった彼女。自分が病院で散ることで最後のスワスチカが開かれる。黒円卓の野望は潰える。
“どうだ、思い知ったか黒円卓。私たちの人生を狂わせた戦争の怪物ども”
“たとえこの先何があっても、私はあなた達から逃げたりしない”
そして最後に友人と喧嘩しようと、
螢「私、藤井君のこと、好きになっちゃったみたい」
香「そう……」
「見る目あるね、螢」
そうして最初で最後の友達に抱かれ、螢は旅立つ。
エピローグ
そこには……最高にご満悦な首領閣下の姿が!
螢の魂を吸い、英雄と認める玲愛ルートは忘れろ。
けっきょく裏切り者ウェルカムなこの人。
早くも次の儀式が楽しみだとワクワクしているし、もうホント最強だなコイツ。
もう一人のトップ、メルクリウスも(一体なんの権利があってか)マリィを無事回収。次のツァラトゥストラを準備することに。
さらに、一度黄金錬成を成立させた者は“格落ち”だろうが正統なゾーネンキント扱いになるというトンデモない事実が明らかにされる。
なんて柔軟な術式なんだ…水銀の手管に戦慄するわ。
これにより蓮、香純、そして2人の子孫は黄金の地獄に絡むこと確定。
満面な香純の笑顔が映されるなか、黄金と水銀の高笑いにより香純ルートは幕をとじる。
キャラ雑感
蓮
厨二病ストーリーの主人公なのに厨二力が足りないといわれる悲劇。
強さも下から数えたほうが早いのでは?自力でまともに倒せたのがシュピーネさんだけっておまえ……。
ただトリファも言っていたけど、まともな思考であるということは決して悪いことじゃないので、香純と幸せな未来を掴みとってほしい。
香純
後半で怒涛の追い上げを見せた我らが太陽。
プレイしていて、その強さに脱帽。
最後らへんは感動しっぱなしだったよ。すごいよ太陽。
日常の象徴であるがゆえに、蚊帳の外に置かれがちなのだが、それが魅力なんだよ香純。
螢
シナリオ上、どうしても香純と比較されてしまった、ある種このルートの被害者。
だがその香純の存在が彼女の救いとなったのは素敵。
病んだ女子は怖い、それを証明しましたね。
玲愛
目を開いて耳をふさぐことをやめた玲愛先輩はつよい。
香純との関係はもちろん、トリファとの絆もしっかり描いてくれて感涙。トリファの手を掴んだシーンはめちゃくちゃ好き。
しかしどうして先輩はTwitterやドラマCDだとあんなキャラになってしまうんだろうか……。
マリィ
わりと早い段階で空気になってた子。
このルートの最大の被害者はこっちだったか。
最後浜辺に戻った際、鎖に縛られてたけどあれは水銀の趣味か?くたばれニート。
司狼
人の身でヴィルヘルムを倒したすごい奴。
きっちり策を弄して戦ったり理詰めで攻めたり、戦闘描写は蓮よりも面白かった。
次の濃厚なヤンキー対決はマリィルートまでお預けなのが少し寂しい。
ヴィルヘルム
舐めプしてたら、弱点つかれて負けた哀れっぷり。しかしそれでこそヴィルヘルム。
奪われることはなかったものの、勝利を掴めなかった。しかしそれでこそヴィルヘルム。
次のルートじゃあ小娘にも負けちゃうその不遇な扱い。しかしそれでこそ以下略。
トリファ
首領代行どころかラスボスも代行した忙しい人。
その狂人ぶりはどう考えても中の人補正が強すぎる。
正田作品はみな演技力ハンパじゃないけど、トリファの声優さんはすさまじい。
最後にようやく進むべき道を見出せたのは良かったけど、まず城に行ったら何人かにゴメンなさいしなきゃだね。
黄金&水銀
こいつらほど働かないことが喜ばれるヤツはまあいない。
バッドエンドで終わってしまった香純ルート。
だが香純の秘める強さを知っているからか、生じた気持ちは絶望だけでは決してない。
どうせ最後は黄金vs水銀の痴話ゲンカだしな。
さあ次はアホタルルートだ。
ベアトリスラジオ→「Dies irae ベアトリスラジオ」感想 - ゆらりゆらりとゆらゆらと