『神咒神威神楽 曙之光』曙之光 感想・下
“曙光曼荼羅はこれからも総ての命を見守ろう。刹那の愛に敬意を示し、黄昏の抱擁を胸に刻んで”
後日談後半。
朝陽の光が、黄昏に劣らない証明がここに。
・忘れません。愛しています。これからも、自分にとってあなたは偉大な母なのだから
陰陽師組が訪れたのは、タワー。
蓮vsマキナ聖戦の地。
2人に所縁のある夜行としては、訪れるのも必然か。
街並みを歩く人々。
皆が学業や仕事に従事しており、何気ない光景が龍水にはたまらない。
己だけでなく周りと共同して生きていく彼らは木偶なんかじゃないのだと、どこか誇らしそうな笑顔がいいね。
夜行も龍水に同感。
人々の魂を導いているからなおのことか。
と、ここで龍水の顔が曇る。
というのも、第七天の法則を機能させているのは実質夜行一人で、龍水含め他の面子は、キツい言い方をするとただのニート。
重責を夜行だけに背負わせていること、番いである龍水としてはより申し訳ない気持ちでいっぱい。
だが、肝心の夜行はいたって余裕の表情。
というのも、魂というものは自然と惹かれた“場所”に行きつくモノであり、夜行本人が手を下した案件はこの100年の中で片手程度とのこと。こいつじゃあずっと酒あおって呑んだくれてただけじゃあ......。
夜「でしゃばって良いことなど何もない。私が個人的に好感を持っている水銀という座がいてな。彼もそのようなことを言っていた」
「己が舞台に上がると、万象つまらなくなる。私も同感だよ」
夜行の水銀贔屓は座をとった後も変わらない模様。
もっとも、その水銀は舞台にずっと上がりたがっていたわけだが。
そんな訳で大きな心配事がなくなった龍水はホッと一息。
しかしそうなってくると、逆にその夜行が直接かかわった魂というのが気になってくる。
そのあたり尋ねてみると、返ってくる答えは予想通りといいますか......ぶれない魂の持ち主たち。
・自己の死を唯一無二と定めたゆえに憂いなく終焉を選んだ者
・激烈に望んでいる死後があって、しかしその概念は消えてしまったために、行き場を無くした者
前者も後者も誰かなんてのは言うまでもないですね。
大獄の選択は、彼を知ってる人なら至極まっとう。
第四天のころからずっと望んでいたのだから、むしろ遅すぎたくらい。寂しいけれど、これが彼のハッピーエンド。
一方の我らが姐御。
第七天にも修羅道はあれど、あくまで模倣。
そこに黄金の君はいないため、彼女にとってのヴァルハラにはならない。
当然他の概念に妥協なんて死んでもできないわけで......夜行としても手を焼いたのは明らか。
はぐれ者をださないのが曙光の特徴なのだが、それでも出てきてしまうのは“座”の歪んだ機構からか。
しかし、こうした例外がでてきたときこそ閻魔の出番。
頑固な魂相手には思い切って
眠れない夜を何度も超え、納得できる折衷案を探す。
それが第七天において夜行に与えられた使命。
そしてそんな彼だからこそか、やはり気にするのは“座”のシステムそのもの。
人の想いを一つに統一するなど、どだい無理な話。
黄昏の地平ですら離反する者が出るのだから、やはりシステムは根本から間違っている。
神座という、世にあるべきでないもの——今後どうしていくべきか、考えているうちに......いつのまにか龍水が大型犬に襲われている!!
視界が白く覆われ、さらには顔がヨダレでべちゃくちゃに(笑)。
しかし、誰よりも早く真実に気づいた夜行は、ぼそっと嬉しさを溢す。
夜「毛並みを見れば分かるとも、愛されているようで何よりだ。抱擁をねだる癖は相変わらずだが」
「......いや、それでこそのおまえ達か」
天を超えた主従の再会。かつての主へ忙しなく尾を振る、凶獣としての面影は過去の彼方へ。
そして、そんなヤンチャなペットの下へ駆けつける飼い主——ああ、正田がまた泣かせにきやがった......
——しゃがむ龍水へ伸ばされる手。
転生しても、その魂は煌々と輝いている。
龍水が号泣するのも当然。天地宇宙がどうなろうが、最愛の母との再会で泣かない奴がどこにいようか!!(´Д⊂ヽ
女性の傍には、おなじみの腐れ縁も。
2人は孤児院の職員。飴と鞭がこれ以上なく想像できますよええ。
そんな彼女らは、初対面の龍水たちを前にしてもケンカを始めてしまう。懐かしくも気持ちのいい光景、龍水でなくても微笑んじゃいますよ!
子どもたちを育て導く者として、彼女の放つ言葉は夜行と龍水にまっすぐ響く。
夜行は彼女へ陳謝。
そこに込められているのは、望んでいない生き方をさせてしまった不義。
彼女の魂は先述したように、黄金の下へ消えていくことを願っていた。
しかし、夜行がとった行動は『転生』。
龍水ともう一度逢わせたかったがゆえに。
夜行としても禁忌を犯したことは十分に承知しており、神の傲慢に付き合わせてしまったことを胸中でひたすら詫びる。
そんな思いは、当然今を生きる彼女は知る由もないのだが......
「謝らなくていい。むしろなぜか、私は礼を言いたい気分だよ。自分でもよく分からないが、君たちに会えて妙に安心しているのだ」
「ああ、私は嘘吐きにならずに済んだ......と」
『おまえたちが創る新世界で——きっといつかまた会おう』
「そして——なぜかな、こうも思う」
「夜明けの光、悪くはないよ」
神咒において最大の功労者の一人だった御門龍明=エレオノーレ。
その彼女が幸せを享受してくれていること、娘と再会できたこと......ブログ主にとって、こんなに嬉しいことはないです。
この母娘には作中何度も泣かされましたが、最後の最後までやってくれましたよ(ノД`)。
本当にありがとう!!!
・さあ夜刀よ、最高に幸福な時間を始めようや
覇吐と竜胆は校舎からそのまま屋上へ。
穢土での景色とはまったくの別物で、感動もひとしお。
2人は学校という教育機関に、大いに関心を示す。
天狗道では、知識の共有なんてものは皆「カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ( ゚д゚)、ペッ.」って具合だったので、文化・文明の発達なんて遅々として進まず。
誰もが平等に教育を受け、知識を身に着けていくこの学び舎を、竜胆は眩しそうに見つめる。
かわいい。
本編じゃあ戦装束に男勝りな性格もあってアレだったが、あらためて竜胆の容姿は正田作品でも屈指だな。
「お互い学生だったら 」というifストーリーに花咲かせる2人。
竜「どうせ覇吐は勉強から逃げてばかりになるのではないか?」
「もしくは刑士郎と喧嘩ばかりしているとかな。それで我々に注意されると、そんな光景が目に浮かぶよ」
覇「いやぁ、そりゃどうかねえ。むしろ逆にマブダチやってるかもしれないぜ?お互い気弱な感じでになっててよ」
「そんでまた、鈴鹿や咲耶の方こそ校内一の不良になってたりしてな。魂懸けろよコラァ、とか言って転校生いびってたり。そんで風紀の龍水ちゃんに窘められてたり......という設定はどうよ」
「憐れ気弱な女教師は、鬼の鈴鹿姫に泣かされて不登校になるのであった」
KYな宗次郎、金持ちストーカーな紫織、でゅふふな夜行がいる秀真学園。聴いた人ほどここでニヤッとしたはず。
現世に降りて、あらためて2人は夜刀から託された責任について思いを馳せる。
将として皆を率いていた竜胆はことさら。
万人を一個の意志に従わせるのは、本来あってはならないこと。
群衆がそんな“座”の在り方を知れば、良い気がしないのは当然。
“座”はわざとそういった反発を起こさせる仕様になっているため、ますますタチが悪い。
真面目かつ優しい竜胆は、そのことに頭を悩ませる。
覇吐は彼女を励ましつつ、責任を共に果たしていこうと寄り添う。
話がひと段落つくと、静かに屋上へ訪れる来訪者たち。
覇吐と竜胆にとって、運命を変えた2人のご登場——。
主役を担った後輩と先輩の図。
人として転生を果たせた黄昏の残影たち。
蓮超イケメンやな。水星のネックレスもしっかり着けてるし。そして玲愛の笑顔もたまらん!
彼らへ旧知のごとく話しかける覇吐。
蓮の性格上初対面に馴れ馴れしくされたら嫌な顔をしそうなものだが......魂が感応したのか、気さくに応じる。
卒業してから5年ということなので、現在23~24歳か。
覇吐の軽いノリに、悪い気はしない蓮と玲愛。
似たような奴が身内にいるからと、おなじみの既知感を覚える。しかしそれは決して悪いものではない。
弾むトークは楽しさの証。“時間が止まればいい”という祈りは、こういった美麗な瞬間から生まれたのだと覇吐は確信。邪神の理なんてものは、本来どこにもないのだ。
問題は玲愛先輩(笑)。
穢土では封印されていた電波成分が見事復活。
ノリのいい覇吐ですらたじろぐレベルだから、やはり先輩は強い(確信)。
そしてプチサプライズとして、どうやら神父様も転生していることが確定!
相変わらずの親馬鹿ぶりだそうで......。この後の結婚式でFカップと運命の出会いが待っているだろうと思うとなんか楽しみ。
蓮と玲愛が学校へ訪れたのは、結婚を前にしたある種の里帰り。
過去を振り返り、未来を見据えるために。
覇「......黄昏(ソラ)が好きなんだな、あんたは」
蓮「ああ」
玲愛もまた、ソラへ感謝。
玲「ありがとうとか、任せてとか......彼とは少し違った感じだけど、そう思うことをやめられなくて」
後ろを見て泣き叫ぶようなことはもうしない。
そんなこと、優しかった黄昏は望んでいない。
VFBで正田卿が仰っていたこと、今ならブログ主にも分かります。
とここで、いろんな奴からモテまくりな色男へ、竜胆がチクリ。
竜「本人が自覚してないところであっても、泣かした女性は多いかもしれない」
「高所にやってきたその真意。この街に何人もいるそんな女性に対し、詫びを入れたい気持ちが無意識に働いたのかもしれませんね」
玲「やっぱり分かる?だよね、そしてほら、こんなに無自覚。超ムカつく」
竜胆と玲愛。あんなに相容れなかった両者が、こんなにも意気投合(・∀・)。ニヤニヤがとまらねえ~~。
矛先は覇吐にも向かれ、男どもの針のむしろ感がヤバい。ガールズトークの真骨頂よな。
式の時間が近づき、刹那の邂逅は終わりを迎える。
その道に幸あることを願う覇吐と竜胆。
言われ、蓮と玲愛も胸を張って応じる。
悲劇に見舞われてきた彼らのこれから......絶対幸せになるよな、マリィ。
——そうして、教会で無事執り行われる蓮と玲愛の結婚式。
益荒男たちも遠くから見守る。
各人受けた恩を多小なりとも返せたことで、大満足。
あらためて刑士郎が放つ「どこへだって行けるはず」というセリフがいい。
ハッピーエンドで締まりつつも、夜行は早くも次代に不安視。
人のあるべき姿を見、ならば神とは/世界とはどうあるべきなのかと、虚空を睨む。
そのあたりは益荒男たちでも意見がバラバラ。
しかしそれもまた、曙光が可能性に満ちていることの証。一つの意志より、さまざまな意見を尊重するのが八百万の理。
最後に先人たちをリスペクトする形で、紫織が記念撮影をとることを提案。
デジカメを常備しているのがさすがだ。こいつ今の時代だったら絶対TikTokとかインスタに手だしてるな(笑)。
しかしここで問題発生。三脚なんて便利なものは持ち歩いてないため、誰が撮るの?って話に。
——するとそこへ通りすがりのイケメンが。
なぜ式でその恰好......?
イケメンなので当然写真も撮ってくれる。
撮影寸前までバカやってる益荒男たちを見て、顔を綻ばせながら彼は告げる。
「あんたらが満足するまでそういう仲が続くといいな。オレもそのへん、祈っといてやるよ。余計なお世話かい?」
“に、と笑ったその目に何か、とてつもなく深いものを感じた”
覇吐は曙光へ大団円を報告する。
曙光も、黄昏の英雄たちの幸せを確かめることができて満足。
ふさわしき次代が現れるその時まで、この陽だまりを守っていくことを誓う。
これにて、めでたしめでたし
……
……って終われるかっっ!!!!
なんだ最後の司狼の意味深なセリフと描写は!?
そもそもBGMの「黄泉戸喫」が不穏すぎなんだわ、エピローグ中ずっと流れてて気持ちが落ち着かねーっつーの!!!
ご都合主義を体現するかのごとく、司狼があの場に現れたのが気になりすぎる……。
おそらく......というか十中八九ナラカの意思だよな。
ナラカ因子消えたんじゃねえのかよ、司狼インポになる可能性全然あるじゃねえか(´o`;
……まぁ考えれば確かに、座をどうこうしようと考えてる連中をナラカが放っておくわけねえもんな。とりあえず接触しておこう、といったところか。
あくまで「波旬」という邪悪を退けただけで、神座というシステムは未だ健在。
その奥に潜む、正体不明の存在ナラカ……正田作品3作目にしてついに片鱗をみせてきた。
『神咒神威神楽』は終わるものの、それは壮大な物語の幕開けに繋がるということを、後に全爪牙が思い知ることに......。