『神咒神威神楽 曙之光』神世創生編 感想・上
“どうかお願い。私に立ち上がる力をください”
いよいよメイン格となる覇吐＆竜胆の章に。
咒皇百鬼夜行編と併せて、すべての謎が明らかになる。
特に「波旬の自滅因子」というミスリードがずっと続いていた竜胆の正体には誰もがびっくりしたのでは？
とある人物の記憶。
“彼”は嘆いていた。
一つは五体を持って生まれてこれなかったこと。もう一つは“彼”の兄弟が、世にも恐ろしい存在であったこと。
文字通り不完全な形で生を受けた“彼”は、兄弟の身体の中で寄生しなければ生きていけなかった。
不運はさらに続く。
その兄弟は、唯我の極致にいた。
他者というものを受け入れられず、例外は一つもない。
自分以外の何かを常に感じていた兄弟は、ついに廃絶の意志を見せる。
それは「一人になりたい」から「一人にしろ」と願いが変貌するほどの域。
結末は咒皇百鬼夜行編で語られた通り。
そして発生する“座の交代”......それは兄弟にとってまったくの想定外。
宇宙中の魂を内包することになり、しかもあろうことか肝心の“彼”は健在。
荒れ狂う滅尽滅相の波。全てを超至近距離で見ていた“彼”は、ただただ願う。
“ぼくは生きたい。ただ生きていたいだけなんだ”
人並みの生。破壊の権化たる兄弟から解放され、真っ当な人生を送りたい。
しかし、身体を持たない“彼”は兄弟無しでは死んでしまう。
外に出て生きたい・外に出たら死んでしまう
どうしようもない二律背反を抱え、一層肥大化する生への渇望。
しかしもうすぐ、もう間もなく、滅尽滅相の瞳はこちらを見つけ出し——。
というドギツい夢を見て、覇吐起床。
場所は御門家で、目の前には安定のチンチクリン。
竜胆が亡くなり、覇吐はすっかり消沈。
そんな気の抜けた阿呆へ、龍水が一喝！
百鬼夜行編を先にやったからか、龍水が非常に頼もしくみえる。
んでもってこういうときは、やっぱり女性の方が強いっすね。正田卿もよく分かってらっしゃる。
龍水に尻を蹴られ、部屋から退室する覇吐。
今度は外で夜行と対面。
気落ちしてる覇吐とは反対に、座へのカチコミを決めてる夜行は気合十分。
夜行は夜刀の遺言を引き合いに、覇吐へ世界の真実を伝える。
夜「この世は上座の奪い合いなのだ。より強大な存在が覇を唱え、自らの太極(いのり)で塗り潰す。それが太古から連綿と続いてきた理でもある」
「曰く夜都賀波岐、曰く天魔、曰く戦鬼と蔑まれ、恐れられた彼らの真とは旧世界の残影なのだ」
「その咒を、黄昏と呼ぶ」
そんな突拍子もない話、しかし覇吐は嘘ではないと確信。
それを踏まえた上で、彼ら残影を覇吐は——
覇「——あいつらは、ただの負け犬なんかじゃねえ」
彼らと戦い、彼らが持っていた輝きを確かに感じとっていた。
特にタイマン張った夜刀への理解は半端じゃなく、その根っこが「照れ屋でツンデレ」だということを正しく理解。なんかこっちまで嬉しくなるね( ´▽｀)。
夜行は続けて“座”の欠陥についても説明。
それは「善悪問わない」というところ。
どれだけ歪んでいようとも、強い者が支配権を得る非常にシンプルな脳筋仕様。
第五天まではギリギリそれでもなんとか保っていたのだが(第一天もだいぶヤバい世界だが)、今回はマジでシャレにならない。
なんせ次の法則は「滅尽滅相」。宇宙に誰も何も残らない。
その完成を防いでいた夜刀ら天魔がどれだけ偉大だったかを聞かせ......夜行は次いで竜胆の名を口に出す。
波旬という悪鬼を、彼女が許すはずがないと語る。
竜胆の件で再び気落ちする覇吐へ、夜行はお構いなしに今度は“国葬”の話題を持ち出す。
国を挙げての葬儀など神州では前代未聞。
死を悼むこの行事......ならば死後は？死んだ後、人はどうなるのかどこへ逝くのか？そんな疑問をぶつけられ、覇吐はこれまで意識していた死というものを、いつのまにか考えていなかったことに気づく。
契機は、夜刀が消え竜胆を喪った時......。
知らず天狗道に呑まれていたことに慄く。
とにもかくにも夜行が言いたいのは「さっさと国葬行ってこいや」ってこと。
覇吐としても竜胆の死を受け入れる覚悟が必要なため、久雅家へ。
そして視点は、なんと葬儀が行われるその張本人へ。
死の淵の中で、竜胆は己の真実を知ることになる。
全ての始まりは、波旬がこの世に生を受けたところから。
波旬は本来双子として生まれてくるはずだった。
ところが双子は胎内で成長する過程で、人の形を持つことができなかった。
結果、五体満足で生誕したのは波旬のみ。兄弟になるはずだった“彼”は畸形脳腫として、波旬の中に残ってしまう。
そして、何より不幸なのは......そんな“彼”が心を宿していたことだった。
十全な身体を持たない自身の存在を嘆き、己以外の全てを拒絶する波旬の存在を恐れた。
だから、願ったのは“生きたい”というそれだけ。
兄弟の身体から抜け出て、外の光に触れたいというごく自然な想い。
——竜胆は死から目覚める。
作中最大の謎だった彼女の正体。それは畸形脳腫の自滅因子。
“彼”が抱いていた「外に出たい」という願いから生まれた。
宿主である畸形嚢腫を殺すために存在し、役割を終えるまで死ぬことが許されない。
竜胆の死は、実際蝦夷が最初ではなく、遡ると不和之関。
益荒男たちが次々と敗れ、悪路＆母禮に斬られた段階で彼女の心臓は止まった。
しかし自滅因子補正が働き、その後は心臓が止まったまま活動を続けていた。
覇吐ら仲間たちに打ち明けられなかった秘密がコレであり、ずっとこの謎に怯えていた。
常世に言われた言葉の数々も、今になってようやく身に降りかかってくる。
竜胆が覇道を示せば示すほど、益荒男たちの存在は浮彫りになっていき、それはやがて波旬の目に確実に止まる。
それが竜胆に与えられた役割。知らず、畸形脳腫=覇吐を波旬の前に引きずり出すよう動いていた。
夜刀戦後に死んだ理由は、無意識の内に「覇吐を守りたい」というストッパーがかかったため。生きていたら覇吐の害にしかならないと感じたゆえか。
これらの真実を知り、掲げてきた“魂”も舞台装置にしか過ぎなかったのだと嘆き、咽び泣く。
竜「助けて......」
気丈な彼女の深い悲しみ......。ブログ主のメンタルにクリーンヒット。
コラぁ覇吐、てめえ無敵の主人公やろがはよ助けにこいやぁ(*｀Д´)ノ
ヒロインがそんな悲痛なことになってるのも知らず、久雅家にやってきた覇吐。
思い出すこれまでの日々。
共に立ち、終わったら祝宴を開こうという約束も夢のまた夢。
竜胆ならば新たな世界を築いてくれると信じていた、そしてその世界はどんなものになっていたか......。
覇「ああ、そうだ——俺は、日の出がいい」
黄昏に劣らない、暖かな朝日。
そんな感傷に浸っていると、
深々とした雰囲気から一転して流れる「唯我変生魔羅之理」。
現れた冷泉の配下たち、逆賊討つべしと揚々と謳う彼ら。
良くも悪くも、そんな光景に覇吐は吹っ切れる。
竜胆の亡骸を渡すわけにはいかないと、戦いの意志が灯る。
そのままバッサバッサと無双していく......のだが、兵たちはビビるどころかより前のめりになって襲いかかる。
「なにこいつら((((；ﾟДﾟ))))」とドン引きしつつ、覇吐は彼らを通して別の巨大な“何か”を朧げながらに感じ取る。
しばらくした後、全滅成功。
射干補正入ってるとはいえ、覇吐相手だと兵隊さんたちもご愁傷様。
覇吐は竜胆をかっさらうべく、急いで屋敷を出るも......外はさらなる混沌が広がっていた。
“赤子を地面に叩きつけて、ぐしゃぐしゃに踏みにじりながら陶然と酔い痴れている母親がいた”
“両手足を切断されて、背に剣山のごとく無数の包丁を刺されながら、女の喉笛に食いついて噛み切ろうとしている男がいた”
“自分自身、火達磨になって走りながら、呵々と大笑して放火を繰り返している男か女か分からないモノがいた”
どこもかしこもそんなんで、日本どころか宇宙がヤバい。
国葬は既に始まってるっぽく、列が成されている。しかもそこだけ殺し合いは沈静化しているそうなので、自滅因子補正ハンパねえ。
猛ダッシュで列の最前列にたどり着くと、いらっしゃったのはハッちゃけた冷泉様。
そのセフィロスリスペクトな羽はどこから......？
自身の正当性を小難しい言葉で並び立てる。まぁ要は「従わないなら死ね(^^)」ってもの。
神様補正か、煽りスキルの高さが凄いものの、口上なら覇吐も負けてない。
冷泉の今のあり様を嘲笑い、竜胆なら間違いなく非難していると喝破。
文句のつけようのない熱いセリフ！......なのだが、
冷「くは、ははははは、ああそれで？」
「彼女は恐らくこうだった。そう思っていたはずだ。だから今もこれからも、自分は彼女の影をなぞってやると......それはそれは、女かおまえ」
「女々しいものだ、なあ益荒男よ。名乗りを未通女(おぼこ)に改めるがいい」
これが神に選ばれし者。神様譲りの口の悪さよ(笑)。
覇吐もこれには完璧プッツン。不倶戴天。
なんとしてでも、ここで討ち果たさんと前に出るも......。
死んだと思われていた竜胆と再会。
諸々の疑問は、しかし覇吐にとっては些細なこと。とにもかくにも生きていてくれたことを喜び、笑顔がこぼれる。
いっしょにここから逃げ出そうと手を差し伸べる。
......しかし、竜胆はこれを拒絶。
「誰だてめえは気安く呼ぶな」とかなりキツい口調。
覇吐のショックは相当。
それを見て、一層トバしてくる冷泉様。
冷「滑稽。哀れ。救えぬわ......ふふ、なにかなその目は。怖い怖い」
覇「中院......てめえが、竜胆になにかしやがったのかッ」
冷「そして次は嫉妬か、ああ見苦しい」
つ、強え(笑)。煽りが饒舌すぎて逆に清々しいな。
冷泉に付いていこうとする彼女へ、必死に声をかける覇吐。
想いを分かってもらいたいがゆえ、口にするのは出会ったときに誓った一言。「あんたのために、俺は死ぬ」。
しかしそれは、今の竜胆にとっては地雷そのものであり......
竜「貴様......」
「——軽々しく、死を口にするか」
過去最高の怒りを以て、覇吐を両断。
覇吐は落ちる涙をしっかり見逃さない。
意識を失う中で、覇吐もようやく己の真実を思い出す。
坂上覇吐という人物は、本来存在しない。
その正体は、畸形脳腫が生みだした触覚。“彼”の分身体。
前作ではメルクリウスが用いていたこの触覚システム。波旬を通して“座”の力を使ったことで、“彼”も同じことができた。
分身体を生みだした理由はいたって単純。生き残るため。
天狗道を阻害している夜都賀波岐。彼らの消滅は自身の死へのカウントダウンに直結している。そんな中神州では龍明が“東征”準備を着々と進めてるもんだから、畸形脳腫くんにとっては一大事！！
覇吐を生み出し、彼を以て“東征”の全力阻止を図った......のだが。
ここで畸形脳腫くん人生最大の誤算が発生。
なんと生まれてきた坂上覇吐は与えられた役割どころか、自分が何者なのかすら忘れていた！！
波旬という恐怖から遠ざかるための、一種の逃避。
その結果は、東征を阻止するどころか促進してしまうことに。なんて笑えないコントだ......。畸形脳腫くんに身体があったら、さぞ頭を抱えていたことだろう。
“彼”にとってもう一つ想定外だったのは久雅竜胆という存在。
自滅因子である彼女は、役目を全うするかの如く、覇吐へ眩い光を見せる。
その様を、触覚を通してみていた”彼”も自然と惹かれていく。
――そして今、死を決して波旬と対峙しようとする彼女を守るため、逃げることに終止符を。
目覚めると、目の前には宗次郎。
ここで威烈繚乱編とリンク。
緊縛を解いてもらい、夜行からの文を受け取った2人は最終決戦の地へ――。
神座巡り覇吐ver→ 『神咒神威神楽 曙之光』神世創生編 感想・中 - ゆらりゆらりとゆらゆらと
