“ここに誓おう、戦の真は千の信に顕現する”
9話後半。
前半とは違った一つの恋模様の決着。役者が良ければ芝居は至高ってのはホントだな。
辰宮邸で繰り広げられる鳴滝vs幽雫。様相はさながら重戦車vs戦闘機。
恋の奴隷たる両者。愛する者を懸けたこの戦い、地の文がことさら盛り上げてくれる!
“甘粕正彦が狂喜乱舞するような凄絶さを見せつけながら、一歩も譲らぬ馬鹿二人。彼が見ればこう讃えるだろう、おまえたちこそ漢の鑑だ!”
その様を、蕩けながらもどこか冷めた目で見つめるお嬢様。
それもそのはず、この展開は鈴子ルートで既に通った道。なのでこの先の流れも読めてしまうというもの。鳴滝の敗北・幽雫の自決......感じるデジャブに、百合香嬢の中に名状しがたい何かが芽生えそうに。
そんな戸惑う彼女へ、戦下の鳴滝が、
鳴「見届けろ。目を逸らすことだけは決してするな。俺たちの馬鹿さ加減に最後までしっかりケツまで向き合えよ」
「それがあんたにとっての真だろうが」
拮抗する男たちの破段。だからこそ鳴滝は、幽雫の切り札たる急段を案じる。
物語が始まって以降、戦闘から日常生活に至るまで、一度も使用しているところを見たことがない幽雫の左手。“何か”あると、鳴滝の警戒は過去最大。
そう、鳴滝の読みは確か――しかしそこまでが幽雫の策略!
“左に何かある”と思わせることこそが、彼の協力強制発動要件。聖十郎が逝ったことで、奪われていた急段は復活している。幽雫の闇が、脅威となって顕現される――
“左道大逆魘魅蟲”
“急段・顕象――穢跡金剛禁百変法”
かつて幽雫は邯鄲法プレリリースで、同輩すべてをその手で撫で斬った。そんな耐え難い絶望を味わった果てに至った急段。ゆえにその効果は“相手に最大限の絶望を与える”というものに。具体的になにが起こるかは、術者である幽雫にもわからない。
そして今、鳴滝に降りかかる絶望。引きおこる現象は、幽雫との単なる位置入替。
しかし眼前にはキョトン顔のお嬢様!さらに心情の入替も行われており、鳴滝の拳は殺意とともにフルスイング状態へ移行!(゚Д゚;)
この急展開に、碇シンジ君ばりに自身へ「止まれ!」と叫ぶ鳴滝。しかし急段の法則は強力。おまけに頭おわってるお嬢様はバッチこいと受け入れ準備万端。
拳がヒットするまであとわずか――ここに鳴滝は、過去類を見ない勢いで夢を稼働させる。願うのはひたすらに重さ。この世の誰よりも、何よりも己は重いのだと。妄信にも近い強さで、自分自身へ希う。
――そうして、拳は止まる。
“三つの夢を同時に使う?条件に嵌めることで必ず殺す?せせこましい、狡すからい、そうじゃないだろう男というのは”
「俺は、俺だ」
必殺の技である急段を、意志の力で退けた鳴滝。
厨二能力を引き立てるのが正田作品の特徴だが、これも正田作品の特徴精神(渇望)が全てを凌駕する。甘粕が見ていたら間違いなく絶頂に達してただろうな。
だからといって、無茶をしたのは確か。自身へ課した規格外の重量によって、身体は満身創痍。
しかし――鳴滝の戦の真は終わらない。
キーラを倒した鈴子の激励に応えるように、鳴滝はここに新たな夢を獲得する。
彼そのものを具現化したような大剣。「それは剣というにはあまりにも~~」と言わんばかり。初期ステータスではクリエイトはほぼ最低値だっただけに、彼が得物を取るのは完全に想定外よ!!(∩´∀`)∩
振り下ろされる大剣。幽雫はこれを避けるでなく、真っ向受け止めてしまう。その理由はこれまた男くさい鳴滝がみせた意地に負けたくなかったから。
即座に破段を顕象。が、この剣には鳴滝の破段に加え四四八の“犬田子文吾悌順” により、仲間たちの想いも乗っている。
その刃は重さを変えることなく、幽雫を沈める――男と男の戦いもついに決着。
勝敗を分けたのは仲間の有無。仄かに笑う幽雫がなんとももの哀しい(´;ω;`)。
倒れる家令へ、泡食って駆け寄る主。
そんな彼女の行動を、幽雫も、そして百合香自身も困惑する。
幽雫の口から改めて明かされる、彼が主を害そうとした真意。そうでもしないと、彼女に自身の恋心を分かってもらえないと悟ったから。常人には到底理解できないこの心情、それでも幽雫くんは誰よりも一生懸命だった。
そして今やっと、その思いが伝わった。
そこまで見届け、鳴滝は立ち去る。
去り際の「おまえの分まで殴ってやる」という一言が、とても胸に響かせてくれる。
死にゆく幽雫。
ずっと自分の殻にいた百合香は、ようやく他者と世界を知ることができた。
いままでそばにいてくれた大切な家令へ、百合香から告白。あなたのそばにいてもよいかと。
ずっと望んでいたこの言葉......幽雫の返答は、
幽「お断りします」
幽雫の返事はNO。正直これまで散々お嬢様にいいようにされてきたため、幽雫のこの返しはとってもスカッとするものでした。いいぞもっとやれ!
幽「真実を知ったというのなら、ここで朽ちる俺などに構ってどうする」
「安易な選択。まったく生産性のない関係。死者を想ったまま老婆にでもなっていくと?お花畑もそこまでにしていただきたい」
「俺があなたの、新たな牢獄になるなどと......絶対に御免こうむる」
今までのお返しとばかりに言葉の槍を突き返す。
だが全爪牙お察しの通り、これらすべて大切な彼女を想ってこその言葉。「死者しか抱けない者など反吐が出る」と紅蓮の姐さんも仰っていましたが、要は前を向いてほしい・未来を見てほしいという純粋なまでに愛に溢れたセリフ。幽雫の一言一言が胸に刺さるよ......。
彼は続けて「鳴滝を追い続けろ」と想い人へ進言。そこにどれだけの苦難や壁が立ちはだかろうと、めげずに現実に立ち向かってほしいと。夢の世界に逃げることは、もう決して許さない。
そうして彼は旅立つ。先に逝ってしまった同胞たちの下へ。
どこか嬉しそうに溢す彼の声音に、ブログ主も我慢の限界(T_T)。
幽「ああ、待たせたな......いま行くよ」
「無事におまえたちのところへ行ければいいが......駄目かな、こんな俺のままじゃあ......詫びたいことが、無数にあるんだ......聞いてくれよ、なあ、みんな......俺は、真実、おまえたちとの戦の真を......」
最後の最後まで純粋だった、主人公たちの良き先達。100年後ではどうか幸せを掴んでほしい。
そうして――視点は四四八の下へ。
仲間たちの奮戦を見届けて、四四八も水希も心気は万全!
バックで流れる榊原ゆい氏の「紅蓮獄華」が、これ以上なく場面を盛り上げてくれる!
準備運動といわんばかりにサラッと零戦を創形しちゃう水希が頼もしすぎる。
そんな主人公たちを、喜色満面で迎え入れる神野と甘粕。
世界中を夢へ堕とし、万民に試練を課し、英雄を作り讃える。それが甘粕のぱらいぞであり、神野の存在理由。
声高に謳いあげる悪鬼2人。それに栄光、晶、歩美、鈴子、鳴滝が真っ向非難。甘粕の思慮などすべて余計なお世話だと切って捨てる。
最終決戦の場は戦艦伊吹。
四四八たちのリベンジマッチの刻。
主要キャラたちの退場が続いた今章。長かった戦真館もいよいよ終わりに近いんだなと思うとシミジミ。
キャラ雑感
幽雫
正田作品すべて通しても屈指のイケメン。
不遇な過去、戦闘スタイル、ビジュアル、どれをとっても女性人気間違いなし......なのだが、惚れた相手がとんでもない地雷だったもんで、そのイケメンっぷりが陰る陰る。
vs鳴滝はかなり熱く、漢っぷりを大いにみせてもらいました!
百合香
問題児。
こいつさえしっかりしてれば四四八たちの旅路ももう少しマシになってたろうに。
結局こんな最終盤、それも諸々失ってからやっと目が覚めるなんて。この娘は盧生にはなれなれなかったろうな。
ただ、元々持ってる素養と資質はすごいため、現実に還った彼女は目覚ましい活躍をしてくれることでしょう。幽雫くんの死はムダじゃない。そうですよねお嬢様。
第10話→『相州戦神館學園 八命陣』水希ルート第十話 感想・壱 - ゆらりゆらりとゆらゆらと