『相州戦神館學園 八命陣』晶ルート第十話 感想・壱
“だから、絶対おまえを死なせない”
晶ルートもついに最終話。
因縁の柊聖十郎とのひとまずの決着。しかしエピローグが本番だなんて誰が予想できたであろうか。
天粕と聖十郎の会談。前話で盧生と眷属という間柄だと判明した2人。
当然そんな立場を許容できない聖十郎は、天粕に対する敵意を隠そうともしない。
対する天粕、孕んでいる大物っぷりは獣殿に似たものを感じさせる(; ・`д・´)。現に聖十郎にも非常に友好的。
天粕は盟友たるセージへ、四四八からいつ資格を奪うか最終確認。
さまざまな要因を加味し、セージが下した結論は......
聖「このまま第五層(ガザ)で獲る」
その後に控える八層攻略など朝飯前だと言わんばかりの自信で、聖十郎は今すぐ資格を奪う選択を。
しかしながら四四八の持つ資格が果たして天粕に匹敵できるほどのものなのか?不安要素もあるこの選択に、もう一人の親友が待ったをかける。
神「なあセージ、僕らは友達だろう?」
「もっと一緒に悪役っぽくあれこれしようよ。あの日の熱い友情はいったいどこにやったのさ」
聖十郎が掲げる到達点は病気の完治にとどまらず。
最終目的は天粕を排し、唯一無二の盧生となること。
その歪んだまっすぐさを、甘粕は賞賛。
四四八は死の淵。
拷問ともいえるほどの苦しみに、心の支えである仁義八行すらぐらついていく。
四四八は改めて生きることの尊さを感じ、父である聖十郎の思いも、同じ立場になって多少なりとも理解。
ゆえに生きたいと願う四四八、そこに晶の力も重なっていき——。
目覚める四四八.全快とはいかないまでも、先ほどまでの窮状は脱する。
四四八以外のメンツは、未だ予断を許さない。
晶「正直、容態が急変する可能性も込みで運と時間の勝負だな。むしろ、どうしてか一番大きく治ったのは四四八ぐらいなんだよね」
「あたしらの間で、何かカチッと嵌ったみたいでさ。それでこう、ぶわーって感じに限界突破しちゃったわけ。だから自分でも、実はちょっと驚いてるんだわ」
といった具合で、現状戦えるのは四四八と晶のみ。全員を助けるためにも、聖十郎との決戦は必定。
2人で海辺を歩く。
話す内容は生きることのすばらしさ。
そして、幼い時分から誰かのために身体を張ってきた晶へ、四四八は心からの感謝を伝える。
晶はずっと自分のことを「孝」の人間だと謳ってきたが、四四八は彼女を「義」——他人のために尽くせる人間であることを諭す。
家路につき、四四八もこの世界が現実でなく夢界であることを認識。
あらためて聖十郎と戦う覚悟をつくるも、ここで晶から胸の内に抱えている不安を指摘される。
晶「恐いよな、あいつの血が流れてるの」
「おまえはたぶん、深いところで柊聖十郎の本質が見えてしまっているんだと思う。純粋で、突き抜けていて、容赦がないから正直で。それがある意味正しい面を持っているから......割り切れなくて、悔しくて」
悪逆非道の限りを尽くす聖十郎。だが、彼が持つ資質の高さは本物。それが己にも通じる部分があることを、知らず四四八は怯えていた。彼の息子であることをどうしようもなく突きつけられているようで......。
しかし晶は——
晶「おまえの心は全部、恵理子さんがくれたもので構成されているんだよ」
「あの人の愛情を受けて、ここに生まれて——育てられて」
「あたし達と出会ったんだろ。な?」
まぎれもない名シーン。
この言葉で、四四八は救われる。母への気持ちを思い出し、そして晶への想いも純粋に愛へと昇華。
こっからベッドシーン。抱き合うまでの四四八と晶の会話がとてもエモい。正田もまだまだ恋愛書けるんだなと安心(謎の上から目線)。
そうして、いざ決戦の時。
聖十郎の思考は、すでに四四八を討った後のこと。戦真館の面子を幕下に加え、鋼牙・神野を降し、その先の空亡を御すまでのシミュレーションを反芻。
すべては健常な身体を手に入れるため——甘粕を排し、唯一の盧生へ。
聖「さあ祝え、俺の救世主(イェホーシュア)」
四四八は聖十郎へ、なぜ恵理子を娶ったのか訊ねる。
その返答は、「近くにいたから」というただそれだけ。
どこまでも屑な人間性。愛情など欠片も持ちえなかったことを知り、四四八も何度目になるかわからないブチギレ。
展開は白兵戦。
四四八の体術はかなりのもののはずだが、聖十郎がそれらをことごとく上回る。
ただ戦術に秀でているだけではない、その真相は聖十郎がこれまで奪ってきた敵手たちの力。
それらをただの道具としか捉えておらず、四四八は非難。
だが聖十郎にとってはどこ吹く風。すべてを見下し羨望する男が、ここに切り札を抜く。
“干キ萎ミ病ミ枯セ。盈チ乾ルガ如、沈ミ臥セ”
“急段、顕象——”
“生死之縛・玻璃爛宮逆サ磔”
『逆十字』と呼ばれる所以が顕現。
他者の力を奪い、自身の病魔を付与する作中屈指の鬼畜急段。
急段と呼ばれる異能は、どれも能力が強力がゆえに発動するには条件が必要。己だけでなく、相手にも必要な手順を踏ませなければならない。これを協力強制と呼ぶ。
一見シビアにみえるこの協力強制......しかし聖十郎の急段はその条件が激ユル!!
“聖十郎が相手を羨ましいと思い、相手は聖十郎に対し負の感情を持つこと”
以上が成立したとき、逆サ磔は現れる。
聖十郎は普通に生きてる奴全員が羨ましいし、聖十郎と接する奴は大体がコイツに悪いイメージを持つので、気が付いたときにはみんな自然と条件はクリアされてるってな具合。
......にしても条件の緩さと、与える効果が見合ってねえ!!!
ってなわけで、四四八に次々と降りかかる凶悪な病魔の数々。
四四八にとって聖十郎は最大の仇であるため、この急段に嵌るのは必然かつ破るのはムリゲー。
そもそも条件にはまらない奴なんてのは、作中だと悪感情を抱かない甘粕・神野、それに自然災害と同義な空亡くらいだというのだからお手上げっすよ\(^o^)/
この凶悪な急段に抗するべく、晶は癒しをフル稼働。
結果、四四八は傷つくそばから再生。激痛と回復を毎瞬浴びながら、必死に聖十郎へ追いすがる。
徐々に展開にも慣れていき、脊椎が奪われても「この程度か」とこぼすほどに。人間やめたか。
「病は気から」......その言葉をこの世の誰よりも知っているのは聖十郎。
晶との絆を縁に立ち上がってくる息子を見て、この場で一番厄介な存在が晶であることをハッキリ知覚。さらに彼女に対して逆十字の効果が薄いのも、聖十郎の癇に障る。
ゆえに、四四八に対し逆サ磔の真価を発揮する——。
そして異変はすぐに。
動きに精彩さが欠けていく四四八.
すぐそばで支えてくれる少女、目の前で嗤う男が誰なのか、みな分からなくなっていく。
これが逆サ磔の最終段階。目に見えない記憶・誇り・思いすら奪っていく。
——この光景を前に、晶は全力で夢を行使!
奪われた分すべて与えようと、母のような愛情で四四八を助ける。
その力は、逆サ磔をも凌いでいく。
それを見て、当然この男が抱くのは——
聖「——羨ましい」
「おまえの力が、最初から俺にあったのならば」
晶「うるせえよ!あたしだってなぁッ!」
「最初から、あんたがそんな男じゃなかったら......!」
もしも聖十郎が悪鬼羅刹じゃなかったら、自分たちは必死こいて聖十郎を助けようと思ったに違いない......そんな“もしも”の世界が一瞬頭を過ぎって。
——その憐憫、ついに晶も聖十郎の急段に嵌る。
同時に、聖十郎は四四八から晶へと狙いを移す。
盧生となるよりも目先の癒しを優先。晶から全力で奪いにかかる!
対する晶。拒絶しようとはせず、聖十郎へ心の命じるままに楯法をかける。
ここに癒されたいという意思と、癒したいという願いが重なる......協力強制が成される——
”あなたが私を疑っても、私は何も隠さない——あなたが大切な人だから”
“急段、顕象——”
“犬川壮助——義任!”
いざその効果は
聖「空気が旨い」
「身体が軽い」
「素晴らしい!これが、死病(ぜつぼう)の消える感触というものかッ!」
聖十郎を蝕んでいたすべての病が払拭。
自身を苛んでいた天井知らずの苦痛と恐怖から解放され、聖十郎は生涯で味わったことのない幸福を享受。
——ゆえに、晶をこのまま放置するなど当然あり得ず。骨の髄までその力を奪わんと逆サ磔を続行しようとしたそのとき、
止まらない血反吐。
頭の良い聖十郎は、すぐさま原因に思い当たる。
それは過回復。
求めた癒しが大きすぎて、身体が追い付かない。
超加速する細胞分裂が、聖十郎自身を壊していく。
崩れゆく怨敵を前に、四四八が立ち上がる。
どれだけ奪われようとも、思いも絆も心から湧き上がってくる。
最後の吶喊。苦し紛れに幽雫から奪った力を揮う聖十郎だったが、愛を高らかに謳う四四八の前には、もはや相手にならず。
母へ捧げる一打として、ここに聖十郎を撃破。
奪われたすべての人たちに哀悼の意を送り、四四八は晶と仲間たちと共に朝へ帰っていく——。
エピローグ→『相州戦神館學園 八命陣』晶ルート第十話 感想・弍 - ゆらりゆらりとゆらゆらと