“愛しているから、私を食べて”
作中最恐の女がついに目を覚ます。
この上なくキ〇タマがチヂみ上がる最終章。
東の住人が消滅したことにより、“陰気”と呼ばれた旧世界の因子もこの世から無くなっていく。
それは、とりわけ異常だった“凶月の里”も例外でなく。
刑士郎の東征目的は無事果たされた結果に。
その本人も、ヒャッハーの因果を断ち切れたことで、心に燻っていた暴虐欲求も霧散。
幸福=苦痛という独自の感性ともおさらば。
ホントに真人間になってくな......。魅力が......
世はまさに太平。
しかし今度はその“太平”が気に入らない。
「俺が」「私が」と主語の大きい連中が気になって仕方ない。
秀真だけでなく、自身が治める里でもそんな輩が増えてきておりモヤモヤ。
そんなある夜、咲耶と2人で東征の反省会。
咲耶としても充実した日々であったために、それゆえ竜胆の死を嘆く。
あのときああしていれば~~/もっとこうしていれば~~と後悔する彼女へ、刑士郎は「失くしたものは戻らない」とピシャリ。
刹那の矜持であり、渇望の根源でもある思い。それをまさか刑士郎の口から聞くことになろうとは。
「成長」っていうより「達観」って感じ。
刑「俺にとって『女』とはおまえのことだ。他は知らんし、背負いきれん」
「矢面に立つのは男の役目だ。柔いおまえは母屋を守ってりゃいい」
「女の影に隠れたまま荒事を観賞している男など、死んでいい」
......なんなんだこの歯の浮くセリフの数々は。“非モテ”という業すら捨て去ったというのか!?
「女の陰に~~」は、作品ファンの方ならピンとくるはず。おなじみ司狼のセリフ。
蓮の意志やライバルの言葉をこんなところで持ってくるとは。
楽土血染花編はとことん前作を意識してやがる。
しかしながら、ただでさえ刑士郎にゾッコンの咲耶がこんなこと言われた日にゃ、続くリアクションなんて容易に想像できますわ。
咲「ああ、どこかに、わたくしと兄様を縫い付ける丈夫な糸があればよいのに」
「咲耶の総てを奉られればよいのにと、尽きぬ想いがあるのです」
何言っちゃってんのこの娘......?
おしっこチビリそうなんだけど。
その依存度、刑士郎も危うい感覚を覚える。
それを裏付けるように、咲耶の陰気が減じている気配がない。
んでもって、さらと事後。
月を見ながら妹の今後を案じる刑士郎。
東征前・東征中と比べて、より刑士郎に傾倒していくその様。
まるで閉じた小さな世界を生きているようで不安。
“咲耶にとって家族とは?”
問いただしたいものの、咲耶のねっとり具合がすさまじすぎて尻込み。
愛するからこそ壊せ——その言葉を反芻する。
そして雪解けの季節。
兄妹は里の近くにある、毎年咲き誇る花園へ赴く。
一面美しい白い花。そこを優雅に闊歩する咲耶。
「ここまでおいで~」と言わんばかりに景色に溶け込む。
その一見幸せにみえる光景......しかし刑士郎はそこにありえない幻影を見る。
気付けば一面が薔薇・薔薇・薔薇。
咲耶を中心に妖しく咲き誇る血染花。
咲耶の中にいる奴が健在だという何よりの証。刑士郎も確信。
咲「ようやく故郷に帰って来たと、強い郷愁を感じております。おかしな話でございましょう。それでも、わたくしは安らぐのです」
「わたくしはずっとこの楽園を目指してきたと、そう思う心に偽りはございません」
「忘れないで下さいまし。咲耶の血肉は、いつだとて糧になり得るということを」
「兄様のためならば惜しむものなどありません。この麗しき血染花の花壇にて......」
「わたくしが——総てを奉納いたしますから」
......ここにラスボス誕生。
厄介度でいえばベイをも上回る薔薇園の主。
東征が終わって落ち着いていた刑士郎の心に再び火がつく。
咲耶へ近づこうとしたところで、夜行から一枚の文が——。
飢えていればいい、飽いていればいい→「神咒神威神楽 曙之光」楽土血染花編 感想・下 - ゆらりゆらりとゆらゆらと